一般財団法人 日本環境衛生センター

アジア大気汚染研究センター

Asia Center for Air Pollution Research (ACAP)

2022.08.19 研究活動

第63回大気環境学会年会(2022年9月14日(水)~16日(金))において、アジア大気汚染研究センターの研究員が発表

第63回大気環境学会年会(2022年9月14日(水)~16日(金)、大阪公立大学 中百舌鳥キャンパス) において、アジア大気汚染研究センターの研究員が発表します。発表概要は以下のとおりです。

学会名 第63回大気環境学会年会
開催日 2022年9月14日(水)~16日(金)
開催場所 大阪公立大学 中百舌鳥キャンパス

 

 

名前 演題 概要

佐藤啓市霍銘群黒川純一,高橋司,箕浦宏明

バンコク首都圏におけるPM2.5成分の特徴と発生源解析

タイでの重度大気汚染の原因を解明するために,2018~2019年にバンコク首都圏の3地点でPM2.5化学成分の測定を行い,住宅地域,工業地域,道路沿道での成分濃度のトレンド解析を行った。2018年12月~2019年1月にかけて日平均値の環境基準を大きく超過していた。PMFモデルによる発生源寄与解析結果から,バイオマス燃焼,ディーゼル排気粒子,二次粒子生成がPM2.5の主要起源であることが示された。

Mingqun Huo, Ken Yamashita, Keiichi Sato

霍銘群山下研佐藤啓市

Health Impact Caused by the Constituents of PM2.5 in East Asia

(東アジアのPM2.5成分による健康への影響)

This study estimated the health impact attributable to PM2.5 mass and main particulate constitutes namely OC, EC, SO42- and NO3 from representative cities in Japan, China and Thailand. The all-cause mortality due to exposure to PM2.5 in almost all the studied cities showed declining trend. The human health effect attributable to EC in PM2.5 is more significant.

(本研究では、日本、中国、タイの代表的な都市において、PM2.5 の質量と主要粒子状物質であるOC, EC, SO42-, NO3 に起因する健康影響を比較検討した。PM2.5による全死亡率は、ほぼすべての都市で減少傾向を示した。PM2.5中のEC に起因する人体への影響はより顕著であった。)

桃井拓也佐藤啓市霍銘群弓場彬江二見真理,高橋司,箕浦宏明

新潟市郊外におけるPM2.5中のシュウ酸濃度の特徴

シュウ酸はカルボキシル基を2基もつ低分子の有機酸で、PM2.5の2次生成の指標として知られている。また、シュウ酸は自動車排ガス等の原因物質として知られている物質で今後実施する排出源寄与推定のために重要な物質である。シュウ酸濃度の特徴についての報告は、国内では主に太平洋側で行われており、本州日本海側ではほとんど行われていない。そこで、主なPM2.5の発生源が越境大気汚染と測定地点の都市汚染で構成されている本州日本海側の新潟市において、シュウ酸を測定しその特徴について報告する。

弓場彬江,高橋克行,柴崎みはる,吉村有史,Pham Kim Oanh佐藤啓市

PM2.5自動測定機テープろ紙の手分析によるPM2.5成分1時間値を用いた成分変動解析

PM2.5自動測定機で1時間毎に捕集されるテープろ紙を手分析し、PM2.5成分の短時間の変動の解析を実施した。EANET新潟巻測定局のPM2.5自動測定機のテープろ紙のイオン成分分析を行ない、気象条件やPM2.5成分自動測定機(PX-375)から得られた金属成分と合わせて短時間のPM2.5成分濃度変動を解析した結果を発表する。

二見真理弓場彬江桐山悠祐佐々木博行大泉毅佐藤啓市 EANET 分析機関間比較調査におけるカルシウムイオン分析誤差の発生要因の検討 東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)のネットワークセンターでは、分析機関の分析精度向上を目的として、模擬降水試料を用いた調査を毎年実施し、結果の集計及び解析を行っている。精度管理目標に達しないデータは現状でも多数あり、その要因を解明することにより、EANETの分析精度向上につながることが期待される。本発表では、当該調査結果を用いて、カルシウムイオンの分析誤差の発生要因検討のための解析を行ったので、結果を報告する。
佐瀨裕之,齋藤辰善,中田誠,山下尚之,猪股弥生,大泉毅 日本海側の森林集水域における季節性越境大気汚染の緩衝プロセス 日本海側の森林集水域では、冬季北西季節風による越境大気汚染の流入が顕著であるが、季節的な河川の酸性化はそれほど顕著ではない。林外雨、林内雨、樹幹流から、土壌溶液、河川水に至るまでの水文学的過程における硫黄同位体比の鉛直変化から、季節的に大きくなる酸性物質の流入が、どのように生態系内で緩衝されるのか、そのメカニズムを検討した。
大泉毅 同位体を利用した酸性雨研究 20世紀末に関東地方で降水時に発生した人体被害の原因物質の一つとして硫酸が着目され、その発生源を追う方法として硫黄同位体比が利用された。ここでは、同研究における主な成果を以下に示した。①降水中の硫酸の寄与、②新潟県内での越境汚染物質の観測、③全国環境研協議会による流跡線解析、④石炭・石油の硫黄同位体比、⑤硫黄同位体比の長期観測による越境汚染解析、⑥国内多地点での降水、⑦PM2.5の硫黄同位体比観測、⑧生態系への影響。硫黄同位体比測定は、連続フロー型分析装置の普及や共同利用施設の整備等により、迅速な実施が可能となった。硫黄の湿性沈着量は北東アジアにおいて減少傾向にあるが、欧米に比較すれば依然として高水準にあり、それらの発生源情報の取得、また、大気から生態系への移動の追跡手法として同位体が活用されている。
黒川純一桐山悠祐 アジアにおける近年のエネルギー・農業起源メタン排出量の推計 自身が強い温暖化物質であり、かつ対流圏オゾンの前区物質であるメタンは、排出量削減の重要性が高まっている物質である。メタンは多くの大気汚染物質とは異なり、燃焼発生源の寄与は小さく、燃料からの漏洩及び農業起源からの寄与が大きい。更に、排出構造の特徴は国・地域によって大きく異なっている。本発表では、アジア域排出インベントリREAS(Regional Emission inventory in ASia)の対象物質にメタンを追加し、エネルギー(燃料燃焼・燃料からの漏洩)及び農業起源メタン排出量推計システムの開発状況と初期推計結果について報告する。

Jun-ichi Kurokawa, Tsuyoshi Ohizumi, Hiroyuki Sase, Keiichi Sato, Ken Yamashita, Kenichiro Fukunaga, Fan Meng, Shiro Hatakeyama

黒川純一大泉毅佐瀬裕之佐藤啓市山下研福永健一郎孟凡畠山史郎

Progress and future of Acid Deposition Monitoring Network in East Asia (EANET)

(東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)の進展と将来)

The Acid Deposition Monitoring Network in East Asia (EANET) has gained international recognition for its success in promoting regional cooperation on acid deposition monitoring in East Asia. At the international symposium in the 63rd Annual Meeting of JSAE, the major results of the fourth Periodic Report on the State of Acid Deposition in East Asia (PRSAD4) of EANET will be introduced. The outlines of recently expanded scope of EANET and new fund mechanism (Project Fund) will be also introduced and potential future steps of EANET will be discussed.

(東アジアの酸性雨モニタリングに関する地域的な協力の促進において、東アジアの酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)はその成果に対する国際的な評価を受けてきた。第63回大気環境学会の国際シンポジウムにおいて、東アジアにおける酸性雨の状況に関する第4次定期報告書(PRSAD4)の主要な結果を報告する。また、最近拡大されたEANET活動スコープ及び新たに導入された基金(Project Fund)のメカニズムについても紹介し、EANETの今後のステップについて議論する。)

佐々木博行,松谷亮,二見真理,遠藤智美,平野瑞歩,髙橋司 大気中マイクロプラスチック調査手法確立のための基礎的研究 大気中を浮遊する微小マイクロプラスチック粒子(Airborne MicroPlastics; AMPs)に関する研究は比較的新しく、調査手法の確立や存在状況の把握が喫緊の課題である。本研究では、AMPsの採取法、前処理・同定判別法の確立を目的とし、検証を行ったので報告する。
佐々木博行,家合浩明 インパクタ付きフィルターパック法によるPM2.5中無機元素の解析事例 粒子・ガス同時捕集法であるフィルターパック法にインパクタを装着する手法(以下、IFP法)を用いることで、粗大粒子・PM2.5を分粒して捕集することが可能となる。このうちPM2.5に着眼し、通常のIFP法で対象とするイオン成分に加え、輸送過程で変化しにくい無機元素を併せて分析することで、調査地点におけるPM2.5中成分の特徴の把握およびPM2.5の発生源解析への一助となる可能性を検証したので、報告する。
Kim-Oanh Pham,Akinori Hara,JiaYe Zhao,Hiroshi Matsuzaki,Hiroshi Odajima,Kazuichi Hayakawa,Hiroyuki Nakamura

Effect of long-range transport on air pollution in rural and urban areas on the western side of Japan

(日本西部の農村部と都市部の大気汚染物質の長距離輸送の影響)

Air pollution from nearby urban areas was thought to be the main source in rural areas. Two rural/urban areas on the western side of Japan: Fukue/Fukuoka and Noto/Kanazawa were investigated. The concentrations of particulate matter, polycyclic aromatic hydrocarbons (PAHs), and nitro-PAH were measured. Noto/Kanazawa displayed typical rural/urban air pollution’s relationship. However, Fukue had higher concentrations than Fukuoka, which suggested effect of long-range transport from East China.

(農村部では、近隣の都市部からの大気汚染が主な原因であると考えられていた。日本の西側の2つの農村/都市地域:福江/福岡と能登/金沢を調査した。粒子状物質、多環芳香族炭化水素(PAH)、およびニトロPAHの濃度を測定した。能登/金沢は、典型的な地方/都市の大気汚染の関係を示した。しかし、福江は福岡よりも濃度が高く、中国東部からの長距離輸送の影響が示唆された。)

山下研朱美華,青正澄 EANETのスコープ拡大と将来展望 2021年11月のEANET政府間会合で、EANETのスコープ拡大が決定され、PM2.5及びオゾン等に関する活動も対象として盛り込んだ「EANET強化のための文書(Instrument)」の「附属文書(Annex)」が採択された。また、プロジェクトファンドの創設が合意され、運用するためのガイドラインが採択された。
しかし当初スコープ拡大の原案に盛り込まれていた短寿命気候変動汚染物質(SLCPs/SLCFs)であるブラックカーボン(BC)やメタンに関する活動がスコープから外され、気候変動問題への関連活動は将来的な課題であるとされた。
 しかしながら気候変動問題は大気汚染と同様に喫緊の課題であるということは疑問の余地がなく、EANETの取組も近い将来さらなる拡大が必要とされると考えられる。
ここではそのための具体的な方策をいくつか考察する。

 

研究者紹介