一般財団法人 日本環境衛生センター

アジア大気汚染研究センター

Asia Center for Air Pollution Research (ACAP)

酸性雨について

※ 本記事は中学生以上を対象としています

酸性雨について

各地球環境問題の位置づけ(出典:環境庁)
各地球環境問題の位置づけ(出典:環境庁)

地球環境問題という言葉を聞いたことがありますか。 地球環境問題には、オゾン層の破壊、地球の温暖化、酸性雨、熱帯林の減少、砂漠化、開発途上国の公害問題、野生生物の減少、海洋汚染、有害廃棄物の越境移動といった問題が含まれますが、なぜ地球環境問題と呼ばれるのでしょう。

それは、問題による被害や影響が発生原因国のみならず、国境を越えて、地球規模にまで広がる環境問題という面と、問題の解決のために国際的な取り組みが必要とされる環境問題という面を持っているからです。

これらの問題は複雑にからみ合っています。 たとえば、石油や石炭を燃やすと、地球温暖化を進行させる二酸化炭素が発生すると同時に、酸性雨の主な原因物資である二酸化硫黄(亜硫酸ガス)や窒素酸化物を発生し、こららが、森林破壊、野生生物の減少といった問題を引き起こしています。
先進国と呼ばれる国では、大量にものを生産し、大量に消費し、大量に棄てています。

ものをつくる時にも、使う時にも、棄てる時にも大量の資源・エネルギーが必要です。

このことが、酸性雨や地球温暖化をはじめとするいろいろな地球環境問題を進行させています。

酸性雨のしくみ

酸性雨のしくみ
(出典:原 宏)

酸性雨は単に「pH(ピ-エイチ)5.6以下の雨」だと思ってはいけません。 それはほんの一部の問題です。

自動車、工場、発電所、ビルのボイラーなどで石油や石炭を燃やすとき、二酸化硫黄、窒素酸化物といわれる汚染ガスが大気に放出されます。 これらは大気中で硫酸や硝酸に変わり、再び地上に戻ってきます(沈着)。 この戻ってくるコースには 2つあります。

1つは雲を作っている水滴に溶け込んで、雨や雪や霧として地上に戻ってくるものです(湿性沈着)。 このとき、硫酸や硝酸がたくさん溶け込んでいると、雨水は強い酸性を示すことがあります。 これが酸性雨という名前のおこりでもあるのです。 もう 1つは風に乗ったまま戻ってきて、樹木、建物などにくっついたり、わずかですが肺の中にも入ったりします(乾性沈着)。 晴れた日にも風に乗って、硫酸や硝酸が地上にやってくるのです。

地上に戻ってきた酸は、土や湖沼を酸性にします。 すると、樹木や魚などの生き物に何らかの影響が出てきます。 これらの影響は、どのくらい酸が大気から地上に入ってきたかによって決まると考えられています。 つまり、強い酸性の雨(pHは低い)が少し降るよりも、それほど強くはない(pHは低くない)雨がたくさん降ったときの方が、沈着した酸の量が多くなる場合があります。 pHと沈着量をあわせて考えることが大切です。


酸性雨の影響

川や湖や森などの自然の中には、いろいろな生物がいます。そこに酸性雨が降ったらどうなるのでしょう。

<魚への影響>
川の酸性化でサケの仲間が死んだノルウェーのトブダル川(提供:佐竹 研一)

<魚への影響>

北欧では、川や湖が酸性化し、サケの仲間(タイセイヨウサケやブラウントラウトなど)が姿を消してしまいました。 北欧や北米の国々は冬は寒く、酸性の汚染物質を含んだ雪が積もります。 そして、春になり気温が上昇すると、その雪は一度に解け出して、川や湖を酸性化します。 一方、サケは秋に川で産卵しますが、稚魚はおよそ半年後の春まで、生まれた川で過ごします。 サケ科の魚は、もともと酸性にはあまり強くないことが災いして、春の雪解け時に死んでしまったのです。

ヒメマスの雄が雌に求愛しているところ
ヒメマスの雄が雌に求愛しているところ
(提供:北村 章二)
ヒメマスの産卵
ヒメマスの産卵
(提供:北村 章二)

<ヒメマスの場合>

最近のことですが、日本でもサケの仲間のヒメマスが、酸性化に対してどのように反応するかが確かめられました。
ヒメマスは、酸性の水が嫌いで、ほんの少し pH が下がっただけで(pH 7 からpH 6 に変化)、産卵をやめてしまいました。 これまでは、大丈夫だと思われていた中性に近い微酸性の水でも、ヒメマスの行動に影響が出たのです。
このほか、酸性の水の中にとけ込み易いアルミニウムの魚への影響も報告されています。

酸性雨の影響を強く受ける生き物の例
酸性雨の影響を強く受ける生き物の例

<魚以外の生物への影響>

川や湖が酸性化すると、魚の餌となる水中の昆虫や甲殻類(エビなど)、貝も減ってしまうことが知られています。
酸性化の影響は、水草など水中の植物にもおよびます。

酸性化で、植物プランクトンの種類も変化します。

バクテリアと、バクテリアよりは少々酸に強い菌類(カビ)も、酸性の水の影響を受けます。

チェコ西北部クリシュナホリ山岳地帯の森林の枯損(提供:佐竹 研一)
チェコ西北部クリシュナホリ山岳地帯の森林の枯損(提供:佐竹 研一)

<森への影響>

酸性雨は、土、水、土の中のいろいろな生き物、そして樹木にも影響を与えます。 ドイツとチェコとポーランドの国境地帯には、黒い三角地帯と呼ばれる地域があります。 ここでとれる石炭は品質が悪く、たくさんの硫黄を含んでおり、燃やすとたくさんの二酸化硫黄がでます。 火力発電などにこの石炭が多量に使用されたため、森の多くの木が枯れてしまいました。 同様の森林被害は、中国の重慶市などでもおきています。

二酸化硫黄は、硫黄を含む銅やニッケル等の金属を精錬する時にも発生します。 かつて、日本の足尾では、銅を精錬する時、たくさんの二酸化硫黄が発生し、森の木々を枯らしましたが、 同様の被害は、現在でも世界の各地でおきています。 例えば、金属(ニッケル)精錬所があるロシア西部のコラ半島にある精錬所の近郊では、枯れた樹木が数十km にわたって続いているのです。

酸性雨が関係する間接被害には、この他に、ナラタケ菌という、樹木を枯死させる菌類による被害が報告されています。 ナラタケ菌は、土壌が酸性になると繁殖し、傷のある樹木や弱った樹木に侵入して枯らすことがあるのです。

日本には、北から南までたくさんのスギが植えられています。
スギは、耐酸性の樹木ですが、一部の地域では酸性雨の影響で土に含まれる栄養の過不足がおきて、スギの生長に影響がでています。

流れたような銅像のさび (提供:門倉 武夫)
流れたような銅像のさび
(提供:門倉 武夫)
軒下の「つらら」(提供:門倉 武夫)
軒下の「つらら」
(提供:門倉 武夫)

<建造物への影響>

古い建物や高速道路の下などの壁や軒下に「つらら」のようなものが下がっているのを見たことがありますか。 割れ目から入った汚れた雨水が、コンクリートの成分のカルシウムを溶かしながら外に出ます。 そこで、空気中の炭酸ガスと反応してできた炭酸カルシウムが、「つらら」のようになってのびてくるのです。 「つらら」を取って観察すると、先は丸く、いろいろの汚れを含んだしずく(滴)が集まってのびていることが分かります。

酸性雨は、コンクリートのほかに、大理石の床や彫刻、そして銅の屋根まで溶かし、銅像にサビを発生します。 酸性雨が続けば、さらに影響が大きくなり、私たちの環境は大きく変わるでしょう。

雨のpH

pH と⽔素イオン濃度との関係
[H+]という表示は水素イオン濃度を表す。1eq/Lとは1立冬中に水素イオンが1gあることを示し、1μeq/Lは同じく1リットル中に100万分の1g(=1μg(μg))あることを示す。
pH(ピ-エイチ)は、酸性雨を調べるときの大切な指標の1つです。 pH の値と酸の濃さ、つまり水素イオン濃度との関係は、少し複雑です。
pH が低いほどこの水素イオンの濃度が高く、またこの高くなりかたが急激に増大するのです。
pH は、酸とアルカリ(塩基)のバランスで決まります。 つまり、もともとの雨が硝酸や硫酸を多く含み、pHが低くても、アンモニアなどのアルカリを多く取り込めば、pH は高くなります。
pHが低くないからといって、問題がないわけではありません。 pHだけではなく、硫酸や硝酸イオンの濃度などにも注目しましょう。
日本の各地点における降水のpH(環境庁酸性雨対策第三次調査 平成5年度~平成9年度)

降水中のpH分布図
(出典:越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング報告書(平成25〜29年度)の概要)
http://www.env.go.jp/press/files/jp/111140.pdf
雨の pH の簡易測定(提供:川嶋 宗継)
雨の pH の簡易測定(提供:川嶋 宗継)

<pH の測定>

pH は、簡易 pH 計、pH 指示薬、パックテスト、pH 試験紙などを使って簡単に測定できます。 皆さんの住んでいる地域に降る雨の pH を測ってみましょう。

<雨を集めるときの注意>

都市域で雨を集めるときには、自動車やボイラーの排ガスなどの酸性物質の発生源の影響を避けた地点を選んでください。
また、建物、樹木からも十分離れた場所を選んでください。 カップなどの捕集装置から天を見て、少なくとも角度30度以内に何も無い所が望ましい地点です。
ベランダなどに容器を置くのは、好ましくありません。

ペットボトルを利用した雨のサンプリング (提供:川嶋 宗継)
ペットボトルを利用した雨のサンプリング
(提供:川嶋 宗継)

<雨を集める容器>

雨を集めるための容器は、直径が 20cm 程度のガラス製のものが、きれいに洗えるので適当です。
プラスチック容器でもかまいませんが、洗うときに傷が付かないように注意してください。

また、容器がきれいかどうかを確かめる必要があります。 測定するときと同じように洗い、蒸留水を入れてそのpH を測り、確かめます。

環境影響調査

山地の湖沼での調査(提供:小倉 紀雄)
山地の湖沼での調査(提供:小倉 紀雄)

<陸水の調査>

酸性雨の影響を受けやすい湖沼や河川は、土壌の基岩が花崗岩、片麻岩、石英などに富む地域にあり、 人間活動の影響を直接受けていない山地の湖沼や渓流水などです。 このような、地域の陸水を何度も調査することは大変ですが、身近なところに湖沼や河川があれば、それらの水質を測定し、測定法や結果のまとめ方を習いましょう。

pH と電気伝導率は、携帯用の器具を用いて、現地で行います。 酸性雨の影響の受け易さの指標となるアルカリ度を測定することも望ましいことです。
酸性雨の影響を受け易い湖沼や河川は、電気伝導率やアルカリ度が低いところです。

測定は、同一試料について繰り返し行い、それらの結果が大きく異なる場合には、再測定を行います。

<結果のまとめ方>

得られた結果は整理し、報告書などとしてまとめることが大切です。 自分たちで測定した結果が、行政や研究者が行っている結果と合うかどうか検討します。
結果の解釈などが分からない時には、指導者や専門家に相談することも重要です。

測定できる限り長期間行い、環境の変化があるかどうかを検討し、酸性雨の原因となる大気汚染物質を減らす方法などを考え、できることから実践することが大切です。

<土壌・植生への影響の調査>

樹木は、同じ場所で長年の間生育しているために、大気汚染や酸性雨の影響を受けて、樹形が変化したり、衰え弱ったりします。 樹木の生育異常には、(1)葉が少なくなる、(2)こずえに枯れた枝が目立つ、(3)樹形が自然の形と異なる、(4)枝が細かく短くなる、(5)葉が小さくなり、形がゆがむ、(6)葉の色が悪くなる、(7)新芽が出る時期が遅くなる、(8)季節はずれに落葉する、(9)紅葉がきたなくなる、といった症状が現れます。
樹形の変化から、樹木の健康度(衰退度)を評価したスギの例を、図に示します。

地表面近くの土壌を採取して、一定量の水を加えた後に、土壌溶液の pH を簡易測定法で測定します。
その値が、4.5 以下であれば、要注意です。

スギの健康度の評価基準(出典:神奈川県環境部大気保全課) 土壌断面の調査(提供:戸塚 績)
スギの健康度の評価基準(出典:神奈川県環境部大気保全課) 土壌断面の調査(提供:戸塚 績)

エネルギーの消費と酸性雨

酸性雨の原因物質は、主に石炭や石油の燃焼によって生じます。 日本では、日常生活で石炭を燃やすことはほとんどなくなりましたので、石油の燃焼が主な原因です。
暖房や自動車の使用などを控え、石油を使うことを少なくすることは重要ですが、それだけで酸性雨の原因物質の発生は減るのでしょうか。

私たちが使っているほとんど全ての製品は、製造過程のどこかで電気が使われています。
電気の大部分は、重油や石炭を燃やして発電する火力発電所で作られています。

また、製品を運搬するトラック、列車、船、飛行機の燃料もガソリンなどの石油です。

さらに、私たちが日常生活の中で出すごみの処理においても、酸性雨の原因物質が発生します。

つまり、酸性雨の原因物質の発生は、生産、消費、廃棄といった人間活動のすべてに関わり、とりわけエネルギー消費に強く関わっているのです。

石油や石炭を燃やす量が少なくなれば、大気汚染も改善され、さらには、炭酸ガスの発生をも抑制することになりますから、地球温暖化対策にも大きく貢献できるのです。 日本では、様々な産業でエネルギー消費を減らす努力がされてきましたが、各家庭でのエネルギー消費は、むしろ増え続けています。

資源の消費と酸性雨

資源の消費と環境汚染は、となり合わせの問題です。例えば、日本は世界第2位の銅の消費国で、年間約150万トン弱を消費しています。奈良の大仏の重さが約500トンですから大仏約3,000体分の銅を消費していることになります。

昔、日本ではたくさんの銅が産出しましたが、掘り尽くしてしまいました。 今では銅の全てを輸入に頼っています。 その 40% は、私たちに身近な電線に使われています。 銅は、硫黄をたくさん含む硫化銅を精錬して作り出すのですが、その時、二酸化硫黄が大量に発生します。また、銅鉱石を採掘する時、川が生物に有害な銅で汚染されます。 しかし、川の銅汚染等は対策の難しい問題です。つまり、銅を輸出している国で、酸性雨問題・環境問題が発生しているのです。
このように、酸性雨問題を解決するためには、国際協力が必要です。

酸性雨を防ぐための生活

あなたにできる酸性雨を防ぐための生活
日常生活の中で、何に心がけたら酸性雨を防ぐために効果があるのでしょうか。 みんなでできる酸性雨を防ぐための生活の一例を示します。

買わずに済むのに買う無駄をしていませんか。 家族で融通しあい、複数台購入する無駄を避ける(特に、ルームエアコン、乗用車、テレビ)。
不要な機能の付いた製品を購入していませんか。 製品に新たな機能を付与するために、開発、製造、販売する段階で大量のエネルギーが消費されています。 使わなくても済む自動機能がついた製品を購入しない。
使わずに済む無駄をしていませんか。 バスや電車を利用できるのに、乗用車を利用する無駄。 徒歩あるいは自転車で済むところを、自動車を利用する無駄。 冷暖房器具を使用しなくても過ごせるのに、使用する無駄。
機能を過大に働かせる無駄をしていませんか。 冷暖房器具の設定温度(夏の冷やし過ぎ、冬の暖め過ぎ)。 暗くても済むところを明るく照明。冷蔵庫への物の詰め過ぎ。
利用していないのにエネルギーを消費する無駄をしていませんか。 人のいない部屋でのルームエアコン等の冷暖房器具、テレビ、照明の使用。 製品が修理不能となるまで十分使いきらずに捨てる無駄。 廃棄物を処理するのに大量のエネルギーが消費されています。


出典:家庭向け省エネ関連情報「省エネって何?」(経済産業省資源エネルギー庁)
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/what/index.html#actual