第66回大気環境学会年会(2025年9月17日~19日、名古屋大学) において、アジア大気汚染研究センターの研究員が発表しました。発表概要は以下のとおりです。
学会名 | 第66回大気環境学会年会 |
開催日 | 2025年9月17日(水)~19日(金) |
開催場所 | 名古屋大学 東山キャンパス (愛知県名古屋市千種区不老町) |
名前 | 演題 | 概要 |
大原利眞,板橋秀一,永島達也,河野なつ実,花岡達也,黒川純一,鵜野伊津志 |
2050カーボンニュートラル環境での国内地表オゾンの将来見通し |
2050年にカーボンニュートラル(2050CN)を達成する国家目標に向けた社会の脱炭素化は、国内の大気質に大きく影響することが想定されるが、これを定量的に評価した研究は少ない。本発表では、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20235M01)で実施した研究課題「2050カーボンニュートラル環境での国内地表オゾンの予測と低オゾン・脱炭素コベネフィット戦略の提示」において使用した将来排出シナリオについて報告した。 |
山下研,朱美華,Mingqun Huo, Mohammad Arif, Xerxes Seposo, 上田佳代,赤星香,Eric Zusman |
PM2.5とオゾンによる大気汚染の健康影響と気候変動とのコベネフィット |
本研究は、人口規模の異なる新潟市と八戸市を対象に、2050年までの気候変動シナリオ別(BAUとネットゼロ)のPM2.5による早期死亡数をGAINSモデルと濃度‐反応関数を用いて推計したものである。結果として、両市ともエネルギー消費量は増加するが、ネットゼロシナリオでは再生可能エネルギーへの転換によりPM2.5濃度が低下し、早期死亡数も減少することが示された。ただし、2030年および2050年に早期死亡数が増加するのは、高齢者人口の増加に伴いPM2.5への脆弱性が高まるためであり、シナリオ比較ではネットゼロが健康影響の低減に有効であることが明らかとなった。 |
朱美華,Mingqun Huo, Mohammad Arif, 山下研 |
2050年までの新潟市と八戸市のエネルギー消費に関するシナジー分析 |
新潟市と八戸市を対象に、2050年カーボンニュートラル達成に向けたエネルギー消費と排出量の将来予測を行った。交通・産業・家庭・廃棄物部門のエネルギー需要を推定し、GAINSモデル(Greenhouse Gas and Air Pollution Interactions and Synergies)を用いて、温室効果ガス(CO₂)と微小粒子状物質(PM2.5)の排出量を試算した。BAU(Business As Usual)シナリオは現行政策の継続を前提とし、対照的にカーボンニュートラルシナリオでは排出削減対策を反映。結果、両市ともにCO₂・PM2.5の大幅な削減が見込まれ、特に製造業と家庭部門が主要な排出源であることが判明。クリーン燃料の導入も排出削減に寄与し、中小都市におけるコベネフィットの有効性が示された。 |
庄司貴,朱美華,遠藤智美,柴崎みはる,吉村有史,山下研,高橋克行 |
黄砂飛来が日本国内の家計に与える経済的影響の試算 |
日本全国の成人4,700人を対象としたアンケート調査を通じて、黄砂飛来時に人々が取る可能性のある行動(マスク着用、洗車、洗濯、掃除など)にかかる費用を試算し、黄砂飛来1回あたりの日本全体の経済的影響額を約834.8億円(1人当たり658円)と推計された。特に西日本の日本海側では対策行動の実施率が高く、黄砂の飛来頻度との関連性が示唆されており、洗濯や清掃などの家事にかかる費用が最も大きな影響要因であることが明らかになった。 |
佐藤啓市,霍銘群,弓場彬江,二見真理,Kim-Oanh Pham,高橋司,箕浦宏明,Ngoc Tran,藤井佑介,竹中規訓,To Thi Hien | 日本と東南アジア諸国のPM2.5発生源寄与の比較 | 日本(新潟)および東南アジア(ホーチミン、バンコク)におけるPM2.5の発生源寄与を比較した。2018年から2022年にかけて各都市で採取されたPM2.5の成分分析を通じて、地域ごとの発生源の特徴を明らかにした。新潟では季節によって二次粒子の寄与が大きく変化し、自然起源の影響も一定程度認められた。一方、バンコクでは交通および工業活動の影響が強く、バイオマスやプラスチック燃焼由来の成分が多く検出された。ホーチミンでは家庭ごみの野焼きなど未管理の廃棄物処理が主な発生源と考えられ、都市型排出源とともに大気質に大きな影響を与えていることが示唆された。これらの結果は、PM2.5の成分組成が地域の社会・環境的背景を反映していることを示している。 |
佐瀨裕之,Phuvasa CHANONMUANG, 諸橋将雪,徐懋,反町篤行,松田和秀 | タイ熱帯乾燥林における反応性窒素の沈着プロセス | 熱帯の森林地域における窒素沈着の実態はまだ不明な点が多い。乾季・雨季が明確なタイ熱帯乾燥林において、葉面を純水で直接洗浄・抽出する方法を用いて、乾季の無降雨期間に沈着した窒素成分の評価を行った。一般的には表面に多く沈着する傾向から、重力沈降の寄与が得やすい比較的大粒径の粒子による沈着が主要なプロセスであると示唆される。表面・裏面の沈着比率など、成分ごとに評価し、粒子・ガスの寄与を検討する。 |
黒川純一,桐山悠祐 | アジア域排出インベントリREASv4(暫定版)による 近年のSLCF関連物質排出量のトレンド |
アジア域排出インベントリREASv3.2.1の基本フレームワークをベースとし、対象物質にCH4を加え、対象年を2022年まで延伸して更新したREASv4の暫定推計結果を用い、アジア主要国・地域における近年の短寿命気候強制因子(SLCF)関連物質排出量のトレンド、排出構造の変化などについて評価を行った。中国の排出量のピーク時は、中国がアジア全域に占める割合が圧倒的であったが、近年では、SO2はインドが中国を凌駕し、PM2.5、BC、OCの排出量も中国とインドがほぼ同等という推計結果となった。 |
Mingqun Huo, Keiichi Sato (霍銘群,佐藤啓市) |
Characteristics of particulate carbonaceous components observed at Japanese sites (日本の観測地点における炭素質粒子成分の特徴) |
This study measured carbonaceous components in precipitation and PM2.5 at three Japanese sites. Results showed increasing wet deposition of WIOC in Niigata, declining EC in PM2.5 at all sites, and higher scavenging efficiency for coarse particles, underscoring the role of wet deposition in aerosol removal. (本研究は、日本の3地点で降水とPM2.5中の炭素質成分を測定した。新潟でのWIOC湿性沈着の増加、全地点でのEC減少、粗大粒子の高い除去効率が示され、湿性沈着の重要性が明らかとなった。) |
南波裕太,佐藤啓市,霍銘群,弓場彬江,二見真理,古川英理 |
日本海沿岸地域における降水中の有機態窒素の観測 |
大気沈着中の反応性窒素において、有機態窒素を考慮しない場合、反応性窒素の沈着量を少なく見積もることが示唆されている。本研究では、日本海沿岸地域における降水中の有機態窒素に着目し、観測結果から推計した大気沈着量を報告した。 |
弓場彬江,池盛文数,高橋克行,吉村有史,柴崎みはる,佐藤啓市 | PM2.5計テープろ紙を用いたミャンマーにおけるPM2.5成分の短時間変動解析 | ミャンマー・ヤンゴン市におけるPM2.5の短時間成分変動を解析するため、EANETヤンゴン測定局に設置されたPM2.5自動測定機のテープろ紙を用いて、2023年乾季の成分分析を実施した。PM2.5濃度には朝夕にピークを持つ日内変動と、数日単位の周期的変動が確認された。プラスチック燃焼の指標であるテレフタル酸は、PM2.5と同じ日内変動のピークを示し、都市内での燃焼活動が寄与している可能性が示された。バイオマス燃焼の指標であるレボグルコサンは日内変動に加えて、周期の長い変動も見られたことから、郊外地域からバイオマス燃焼由来粒子の流入している可能性が示唆された。 |
二見真理,弓場彬江,桐山悠祐,南波裕太,佐々木博行,佐藤啓市,柴崎みはる | 複数モデルの低コストPM2.5センサーによる並行観測 | 近年、大気常時監視で使用される公定法機器と比べて安価で点検が容易な低コストセンサー(Low-Cost Sensor : LCS)の利用が広まっているが、測定精度や特性を理解して利用することが重要である。本研究では、LCSの長期観測利用に向け、複数モデルのLCSの特徴を明らかにすることを目的として、大型リファレンス機器との並行観測を行ったため、データ解析の結果について報告した。 |
二見真理,朱美華,弓場彬江,Kim-Oanh PHAM,大原利眞 | 日本の大気モニタリング機器の海外展開に関する課題分析 – 国内外の意識調査結果に基づく検討 – |
環境省の請負業務の一部として実施された、大気モニタリング機器の国内企業・業界団体と海外関係者を対象としたアンケート調査と聞き取り調査結果をもとに、日本製機器に関する国内外の評価ギャップについて調査結果を報告するとともに、その解決策の検討および海外展開を促進するための考察についても報告した。 |
二見真理,上原勝善,弓場彬江,山下研,佐藤啓市,大原利眞 | 小中学生を対象とした大気環境に関する啓発活動の実施報告(令和6年度 大気環境未来60事業) | 令和6年度 大気環境未来60事業の助成金を利用し、ACAP一般公開という形式で、子どものための大気環境に関する啓発活動を行った。小中学生向けの体験学習および動画制作を行ったため、それぞれの実施内容を報告した。 |
諸橋将雪,四柳宏基,藪崎志穂,谷川東子,山下尚之,黒川純一,佐瀨裕之 | 船舶の排ガス規制が森林集水域における微量元素の大気沈着に与える影響 | 主に国内から排出される大気汚染物質が生態系に与える影響を評価するため、岐阜県の森林集水域において長期モニタリングを実施している。2020年1月に船舶の燃料油に対する規制が施行されて以降、国内外の沿岸地域ではSO₂濃度やPM中のバナジウム濃度の減少が観測されている。本調査地においても、2020年頃から林外雨中に溶存するバナジウム濃度が急激に減少しており、本規制が大気沈着量に影響を及ぼしたと考えられた。 |
佐々木博行,髙橋司,二見真理,遠藤智美,平野瑞歩,小竹佑佳,Kim-Oanh PHAM, 大河内博 | 顕微ラマン分光法による大気中マイクロプラスチックの実態調査 | 大気中に浮遊するマイクロ・ナノプラスチック(AMNPs)は,健康や環境への影響が懸念される一方で,標準的な測定手法や発生源に関する知見は限られている。本研究では,空間分解能に優れる顕微ラマン分光法(µRaman)を用い,都市域と田園域を含む国内3地点で2023~2024年に集中観測を行った。捕集試料からAMNPsを同定・解析するとともに,併行して測定したPM成分との比較を行った。その結果,全地点でAMNPsが検出され(N=106),ポリエチレン(PE)が最も多く,次いでPET,PAが優勢であり,粒径は10 µm以下,形状は破片状が主体であった。地点ごとにポリマー組成に特徴がみられ,また,Syringaldehydeやタングステン,コバルト,クロムなどPM成分との有意な相関が確認された。これらの知見は,バイオマス燃焼や交通・工業起源などの発生源の関与を示唆するものであり,従来のPM汚染特性と必ずしも一致しないAMNPs動態を理解する上で重要である。 |
桐山悠祐,黒川純一,佐藤啓市 | 日本周辺におけるエアロゾル酸性度のシミュレーションによる再現性評価 | エアロゾル粒子の表面や液相での反応に対して酸性度が影響する事から、例えば大気中での硫酸塩の生成や吸湿性など、粒子の性質を左右する重要な要素の一つであることが知られている。しかしながら、日本やその周辺地域においてその時間、空間的な変動を調査した事例は多くない。また、酸性度の予測に対しては熱力学モデルの不確実性等が影響する等多くの課題が存在している。本研究では、日本とその周辺地域を対象にして、大気質モデルのエアロゾル酸性度の再現性を評価した。 |
Kim-Oanh PHAM, Keichi SATO, Mingqun HUO, Akie YUBA, Mari FUTAMI, Eri FURUKAWA, Hiroaki MINOURA | Evaluating the Contribution of Domestic Open Waste Burning to PM2.5 in Thailand Using Plastic Burning Markers | Domestic open waste burning is a significant but often under-quantified source PM2.5 in Southeast Asia. In this study, we evaluate the contribution of domestic waste combustion to ambient PM2.5 levels in Thailand by leveraging chemical markers specific to plastic burning. We analyzed a year-long dataset of daily PM2.5 chemical composition and employed PMF for source apportionment. |