一般財団法人 日本環境衛生センター

アジア大気汚染研究センター

Asia Center for Air Pollution Research (ACAP)

 

タイ北東部の熱帯乾燥常緑樹林における大気沈着の変化に伴う渓流水のアルカリ化と酸性化(2005~2015年)

 

タイ北東部は明瞭な乾季と雨季に特徴付けられる熱帯サバンナ気候にあり、これに伴う大気からの水や物質流入の季節性は、陸域生態系の生物地球化学的過程にも大きく影響すると考えられます。この研究では、タイ東北部のサケラート試験地において、大気沈着と渓流水質に関する現地調査を6年以上に渡り行いました。

イオン成分の大気沈着は、降水パターンを反映して雨季の初めと終わりに増加しました。渓流水質は、これらの降水パターンや大気沈着の季節変化に鋭敏に応答しました。渓流水pHと電気伝導度は、雨季の初めに、アルカリ度と塩基性の陽イオン濃度とともに上昇しました(アルカリ化)。これは、最初の雨による有機物の無機化と土壌での陰イオンの保持によるものと考えられました。

雨季初期のアルカリ化の後に、渓流水のpHとアルカリ度は、雨季の中期から後期の最高濃度となる硫酸イオンの上昇とともに、急速に低下しました(酸性化)。同じような現象が毎年見られ、渓流水で確認された硫酸イオンのピークレベルは、各年の雨季の最初の2か月間(3月と4月)の大気沈着量を反映していました。雨季初期に土壌に保持された水素イオンや硫酸イオンが、季節後半に放出され酸性化を引き起こしたと考えられます。

観測していた6年間に、硫酸イオンの沈着量と濃度は低下しましたが、渓流水のpHは低下しており、硫酸イオンや他の主要イオン濃度は上昇しました。これは、生態系に蓄積されていた物質の放出が、硫酸イオンの濃度や沈着量の低下と雨季中期から後期における降水量の増加によって促進されたと考えられます。

硫酸イオンの保持・放出サイクルは、熱帯サバンナ気候における渓流水質の季節変動および年々変動の両方に大きく寄与していることが示唆されました。

本研究は、文部科学省科研費新学術領域研究(20120012)、環境省環境研究総合推進費(C-052, C-082, B-0801)、及びアジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN, ARCP2012‐18NMY‐Sase; ARCP2013‐13CMY‐Sase)の支援のもとに実施されたものです。

本研究に関連した発表論文は以下のとおり。