一般財団法人 日本環境衛生センター

アジア大気汚染研究センター

Asia Center for Air Pollution Research (ACAP)

 

加治川試験地及び伊自良湖モニタリングサイトにおける集水域研究(2002年〜)

中部日本の森林集水域における変動する大気環境に対する河川化学性の応答と硫黄の動態

中京工業地帯の風下に位置しており、長期的に硫黄や窒素の大気沈着の影響を受けてきている伊自良湖集水域は、1990年代半ばの極端気象がきっかけとなり、酸性化・窒素飽和したと報告されています。この研究では、1988年から得られている河川水質の長期モニタリングデータを、森林集水域への流入・流出物質収支と硫黄同位体比分析の結果を基に解析しました。

河川pHは、硝酸イオン濃度の低下とともに、2000年代初頭にはモニタリング開始時のレベルであるpH7前後に回復しました。近年の大気沈着の低下に加え、極端気象の影響の減少や森林施業(間伐)が、河川水質の回復に寄与したと考えられます。

硫酸イオンは、河川からの流出量が大気からの流入量を超過していましたが、硫黄同位体比分析の結果、地質(岩石)に由来する硫黄がこの流出量超過に大きく影響(75-91%と推定)していることが判明しました。一方で、大気から沈着した硫黄は、土壌に有機態硫黄として蓄積されていることが示唆されました。また、年輪中に含まれる硫黄同位体比は、中京地域の大気沈着の歴史的変化を記録していました。

伊自良湖集水域の河川水質は、大気沈着や極端気象などの大気環境に鋭敏に応答しており、今後も同様の変化が生じると考えられることから、長期的なモニタリングが必要となります。

本研究は、環境省越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング事業で得られたデータと関連研究の成果を活用して実施したものです。年輪中の硫黄同位体比分析は、総合地球環境学研究所の同位体環境学共同研究の支援により実施したものです。

本研究に関連した発表論文は以下のとおり。